旅行から帰ってきた。荷物の中に、箱がひとつ。
全員に配る用のやつは、もう買ってある。問題はもうひとつのほう。
これ、どうやって渡す?みんながいる場所で個別に渡したら、絶対バレるよね
渡す場面を十回シミュレーションして、結局全員配りの中に混ぜて終わる。毎回それ。
世間の答えは決まってる。バレないよう全員に配りましょう、特別扱いは避けましょう、と。
ただね、全員に配った時点で、その土産は一円の価値もなくなるんだよ。
全員配りに混ぜた瞬間、渡す意味が消える
安全策を取ると、目的を放棄することになる
バレたくないから、みんなに配るついでに渡す。9割がこれをやる。
そして何も起きない。当然でしょ、その土産には相手個人への情報が一つも入っていないので。
気の利く人だな、で処理されて終わり。あなたは職場の人という枠から一歩も出ていない。
安全に渡せたことに、ほっとして終わる。でも何のために買ったのか、そこを思い出してほしい。
もらう側は、土産の数を覚えていない
職場で何かをもらう機会って、意外と多い。
出張土産、余ったお菓子、誰かの実家から届いた何か。
その中に紛れた一個は、記憶に残らない。
残るのは、自分だけに向けられたと分かるものだけです。ここは断言する。
逆の一手、全員配りはやる。そのうえで、個別に一つ足す
やることは、選択じゃなく併用。
全員配りは、いつも通りやる。これは職場での立ち回りとして必要なので、省かない。
そのうえで、その人にだけ、別のものを一つ渡す。
なぜ分けるのか。全員配りに混ぜると特別さが消えるし、個別だけにすると不自然が目立つから。
両方やることで、あなたは気の利く人のまま、一人にだけ違う対応をした人になる。
差を隠すんじゃなく、差を成立させる。
覚悟すべきリスク
個別に渡した時点で、好意は半分バレます。
それでいい、というのが私の立場。全員配りで何も起きない一年より、半分バレて動く三ヶ月のほうが価値があるので。
何を渡すかで、全部が決まる
高いものを選ぶ人が、いちばん外す
特別感を出したくて、少し高いものを買う。これは事故のもと。
値段が上がると、相手は返さなきゃと思う。負債になる。
そして職場では、高価なものは受け取りにくい。周囲の目もある。
特別さは、値段で出すものじゃないんだよ。
逆の一手、その人の発言に紐づいたものを選ぶ
選ぶ基準は、値段でも珍しさでもない。
その人が過去に言ったことと、繋がっているかどうか。
辛いものが好きだと言っていた。コーヒーをよく飲んでいる。甘いものが苦手だと言っていた。
「前に辛いの好きって言ってたので、現地で一番辛いやつ買ってきました」
値段は五百円でいい。むしろ安いほうがいい。
渡しているのは物じゃなく、あなたの発言を覚えていましたという情報なので。
職場で自分の雑談を覚えられている経験は、ほとんどない。上司は成果を見て、同僚は業務を見てる。雑談の中の一言を拾っている人は、まずいないので。
そこを拾うから刺さる。
覚えていることを、出しすぎない
拾うのは一つだけ。二つ三つ並べると、監視になる。
それと、プライベートの話は使わない。仕事中に出た会話の範囲だけに限る。
私が全員配りに混ぜ続けて、負けた話
三ヶ月、フロア全員にお菓子を配った
以前、同じ部署の人を好きになった時のこと。
バレたくない一心で、私は出張や旅行のたびにフロア全員へ配ってた。なんとなく買ってきました、と言いながら。
その中に、彼の分も混ぜて。
三ヶ月続けた。出費もそれなりだった。
結果、何も起きなかった。お菓子をよく配る人として、完璧に定着しただけ。
缶コーヒー一本に、全部持っていかれた
ある日、別の部署の女性が彼にコーヒーを一本渡してるのを見た。
「昨日遅くまでやってたでしょ。お疲れ」
それだけ。値段にして百二十円。
彼、めちゃくちゃ嬉しそうだった。
え、私の三ヶ月は?
悔しかったけど、その場で理解した。私が配っていたのは、誰に向けたものでもないお菓子だった。彼女が渡したのは、あなたを見ていましたという事実だった。
値段でも回数でもなかった。中身が全然違った。
渡すタイミングと場所を、逆算する
全員配りと同じ日に渡さない
これが一番多い失敗。
同じ日に個別で渡すと、二つの意味が混ざる。相手も、全員配りの延長として処理してしまう。
そして周囲の目もある。全員に配った直後に一人だけ追加で渡す姿は、露骨に目立つ。
逆の一手、全員配りの翌日以降、二人になる瞬間に渡す
全員配りは、みんながいる時間に済ませる。
個別のほうは、翌日か、その次の日。
狙うのは、たまたま二人になった瞬間。給湯室、廊下、エレベーター、残業で人が減った時間帯。
そこで、さっと渡して、一言だけ言って、去る。
「これ、前に辛いの好きって言ってたので。じゃあ」
居座らない。反応を見届けようとしない。
見届けようとすると、相手は感想を言う義務を感じるので。負担を渡した時点で、この一手は失敗になる。
二人になる瞬間が作れない場合
無理に作らない。作ろうとした不自然さは、必ず伝わる。
そういう職場なら、机に置くのもあり。ただし付箋に一行だけ添える。
辛いの好きって言ってたので、と書いて、名前を入れる。それだけ。
渡した後の反応から、脈を読む
その場のありがとうは、判定に使えない
受け取った瞬間の笑顔、丁寧なお礼。
これは社会人としての標準動作なので、誰に対してもやる。ここで脈を測るのは無理。
見るべきは、時間が経った後
判定材料は三つ。
一つ目、翌日以降に話題として出してくるか。あれ美味しかったです、とか。その場で終わらせず後日持ち出すのは、意識の証拠。
二つ目、あなたが渡した理由に触れるか。覚えててくれたんですね、と言うなら、狙った部分が届いてる。
三つ目、返しがあるかどうか。ここは読み方が難しくて、同じものをすぐ返す人は、実は距離を保とうとしてる場合がある。借りを消したいので。
一回で結論を出さない。判定は二回目まで待つ。
反応が薄かった場合
ありがとうございますだけで終わった。翌日も何もない。
これを拒絶と読むのは早い。そういうことに気が回らない人という可能性がある。
ただ、二回渡して二回とも同じなら、そこは冷静に見る。
渡した後に、何をするか
連投すると、価値が下がる
反応が良かったから、次の出張でも、その次も。
これをやると日常になる。日常になったものに、人は反応しなくなるので。
個別で渡すのは、旅行や出張のたびじゃなく、理由がある時だけ。年に数回で十分。
希少性を、自分で潰さないこと。
逆の一手、土産を、会話の材料に変える
土産は渡して終わりじゃない。次の接点を作るための布石として使う。
数日後、業務の会話の流れで一言だけ触れる。
「この前のやつ、実は私も初めて食べたんですけど、どうでした?」
これで会話が一往復増える。しかも相手が答えやすい質問。
そこから話が広がれば、土産は仕事を終えたことになる。
物を渡すのが目的じゃなく、会話の理由を作るのが目的なんだよ。ここを取り違えている人が多すぎる。
やってはいけない相手
既婚者と、評価権のある関係
既婚者に理由付きの個別土産を渡すのは、加害の側に立つ行為になる。
上司や部下も同じ。断りにくい立場の人に個人的な好意を渡すのは、相手から選択の自由を奪うので。
常識の逆はやる。倫理の逆はやらない。この線だけは動かさない。
受け取り方に困っている様子が出た場合
渡した時、明らかに戸惑っている。返し方に困っている。
これが出たら、次はない。すぐに標準の距離に戻す。
断れない立場で受け取っている可能性を、常に考えておくこと。
三ヶ月で、段階を上げる
土産だけで関係が進むことはない
正直に書いておく。土産は入口であって、決着じゃない。
一ヶ月目、理由を付けて個別に渡す。
二ヶ月目、反応を見て、会話の材料として回収する。
三ヶ月目、業務が終わった直後の数十秒で、仕事以外の話をする。
ここまでやって反応がないなら、降りる。
段階を踏んでいるから、断られてもいない。だから職場に居続けられる。この撤退のしやすさが、この方法の価値です。
渡し続けるだけの一年を、過ごさない
一番よくないのは、土産だけを何年も続けること。
気が利く人という評価だけが積み上がって、恋愛の枠には一生入らない。
そして相手が誰かと付き合った時、あなたはお土産をくれる人として祝福する側に回る。
物じゃなく、覚えていた事実を渡す
五百円が、三ヶ月の全員配りに勝つ理由
値段でも回数でもない。
そこに、あなたがその人の言葉を覚えていたという情報が入っているかどうか。それだけ。
入っていない土産は、何個渡しても積み上がらないからね。

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