コンビニで手が止まる。
チョコにしようか、それとも缶コーヒー。重くない?いや軽すぎ?
渡す場面を十回シミュレーションして、結局買わずに帰る日もある。
やっと渡せた日は、その後の反応を何時間も分析することになる。ありがとうございますの温度、笑顔の長さ、後で何か言ってくれるかどうか。
世間はこう言う。差し入れで好感度を上げましょう、さりげなく渡すのがコツです、と。
私は言う。全員に配る差し入れは、一円の価値もないんだよ。
差し入れで好感度を上げようとする人が、いちばん損をする
周りに配ってから渡す作戦が、全部を無効化する
バレたくないから、みんなに配るついでに渡す。
9割がこれをやる。安全だから。
そして何も起きない。当然でしょ、その差し入れには相手個人への情報が一つも入っていないので。
気の利く人だな、で処理されて終わり。あなたは職場の人という枠から一歩も出ていない。
安全策を取った時点で、目的を放棄してる。
もらう側は、差し入れの量を覚えていない
接客業でも事務職でも同じで、職場で何かをもらう機会って意外と多い。
出張土産、余ったお菓子、誰かの実家から届いた何か。
その中に紛れた差し入れは、記憶に残らない。
残るのは、自分だけに向けられたと分かるものだけです。
逆の一手、全員に配るのをやめて、一人に理由を付ける
やることは、対象を絞ることじゃなく、理由を渡すこと。
「これ、この前疲れてるって言ってたので」
「甘いの苦手って言ってたから、しょっぱいやつにしました」
物の値段じゃない。あなたの発言を覚えていました、という情報を渡してる。
なぜこれが効くか。職場で自分の発言を覚えられている経験って、ほとんどないので。
上司は成果を見てる。同僚は業務を見てる。雑談の中でこぼした一言を拾っている人は、まずいない。
そこを拾うから刺さる。
覚悟すべきリスク
理由を付けた時点で、好意は半分バレます。
それでいい、というのが私の立場。全員に配って何も起きない一年より、半分バレて動く三ヶ月のほうが価値があるので。
それと、覚えていることを出しすぎると監視になる。プライベートの話は使わない。仕事中に出た会話の範囲だけ。
差し入れの反応から、脈を読む
その場でのありがとうは、判定に使えない
受け取った瞬間の笑顔、丁寧なお礼。
これは社会人としての標準動作です。誰に対してもやる。ここで脈を測るのは無理。
見るべきは、時間が経った後の反応
判定材料は三つ。
一つ目、翌日以降に話題として出してくるか。あれ美味しかったです、とか。その場で終わらせず、後日持ち出すのは意識の証拠。
二つ目、返しがあるか。同じものを返す人は、実は距離を保とうとしてる。借りを消したいので。むしろ返さない人のほうが、関係を続ける気がある場合がある。
三つ目、あなたが渡した理由に触れるか。疲れてるって言ったの覚えててくれたんですね、と言うなら、そこが伝わってる。反応してほしい部分に反応が来た、ということ。
反応が薄い場合の、正しい読み方
ありがとうございますだけで終わった。翌日も何もない。
これを拒絶と読むのは早いです。単に、そういうことに気が回らない人という可能性がある。
判定は二回目まで待つ。一回で結論を出すには、材料が足りていない。
私が三ヶ月、差し入れを配り続けて何も起きなかった話
フロア全員分のお菓子を、毎週買っていた
以前、同じ部署の人を好きになった時のこと。
バレたくない一心で、私は毎週フロア全員にお菓子を配ってた。出張のたび、旅行のたび、なんとなく買ってきましたと言いながら。
その中に、彼の分も混ぜて。
三ヶ月続けた。出費もそれなりだった。
何が起きたか。何も起きなかった。
ただ、お菓子をよく配る人として完全に定着した。
別の人が渡した缶コーヒー一本に、全部持っていかれた
ある日、別の部署の女性が彼にコーヒーを一本渡してるのを見た。
「昨日遅くまでやってたでしょ。お疲れ」
それだけ。値段にして百二十円。
彼、めちゃくちゃ嬉しそうだった。
悔しかったけど、その場で理解した。私が配っていたのは、誰に向けたものでもないお菓子だった。彼女が渡したのは、彼を見ていましたという事実だった。
値段でも回数でもなかったんだよ。中身が全然違った。
渡すタイミングを、業務から逆算する
朝と休憩時間は、実は効かない
みんなが渡す時間帯だから。他の差し入れと並ぶし、周りに人がいる。
それと、朝は相手の頭が仕事に向いてる。渡されたものが処理されずに終わる。
逆の一手、大変な仕事が終わった直後を狙う
狙うのは、締切を越えた日の夕方。トラブルを処理し終えた直後。残業で人が減った時間帯。
この瞬間、相手は感情が動いてる。緊張が解けて、疲れが出て、少し無防備になってる。
そこに差し入れが届くと、記憶に強く残る。感情が動いている時に受け取ったものは、深く刻まれるので。
セリフはこれだけ。
「お疲れさまでした。今日のあれ、大変そうだったので」
見てましたという事実が伝わる。しかも業務の文脈だから、不自然じゃない。
やってはいけない渡し方
忙しい真っ最中に渡すのは論外。相手の作業を止めることになるので。
それと、渡した後に居座らない。渡して、一言だけ言って、去る。
反応を見届けようとすると、相手は感想を言う義務を感じる。負担を渡した時点で、この一手は失敗です。
差し入れの後、何をするか
連投すると、価値が下がる
反応が良かったから、次の週も、その次も。
これをやると、日常になる。日常になったものに、人は反応しなくなるので。
頻度は月に一回か二回まで。しかも、理由がある時だけ。
希少性を自分で潰さないこと。
逆の一手、差し入れを、会話の材料に変える
差し入れは、渡して終わりじゃない。次の接点を作るための布石として使う。
数日後、業務の会話の流れで一言だけ触れる。
「この前のやつ、実は私も初めて買ったんですけど、どうでした?」
これで会話が一往復増える。しかも、相手が答えやすい質問。
そこから話が広がれば、差し入れは仕事を終えたことになる。
物を渡すのが目的じゃなく、会話の理由を作るのが目的なんだよ。ここを取り違えている人が多すぎる。
やってはいけない相手
既婚者と、評価権のある関係
既婚者に理由付きの差し入れを渡すのは、加害の側に立つ行為になる。
上司や部下も同じ。断りにくい立場の人に個人的な好意を渡すのは、相手から選択の自由を奪うので。
常識の逆はやる。倫理の逆はやらない。この線だけは動かさない。
受け取り方に困っている様子が出た場合
渡した時、明らかに戸惑っている。返し方に困っている。
これが出たら、次はない。すぐに標準の距離に戻す。
断れない立場で受け取っている可能性を、常に考えておくこと。
三ヶ月で、段階を上げる
差し入れだけで関係が進むことはない
これは正直に書いておく。差し入れは入口であって、決着じゃない。
一ヶ月目、理由を付けて一度渡す。
二ヶ月目、反応を見て、会話の材料として回収する。
三ヶ月目、業務が終わった直後の数十秒で、仕事以外の話をする。
ここまでやって反応がないなら、降りる。
段階を踏んでいるから、断られてもいない。だから職場に居続けられる。この撤退のしやすさが、この方法の価値です。
渡し続けるだけの一年を、過ごさないこと
一番よくないのは、差し入れだけを何年も続けること。
気の利く人という評価だけが積み上がって、恋愛の枠には一生入らない。
そして相手が誰かと付き合った時、あなたはお菓子をくれる人として祝福する側に回る。
あの立ち位置だけは、本当にきつい。
物じゃなく、見ていた事実を渡す
百二十円の缶コーヒーが、三ヶ月のお菓子に勝つ理由
値段でも回数でもない。
そこに、あなたがその人を見ていたという情報が入っているかどうか。それだけ。
入っていない差し入れは、何個渡しても増えていかない。
次に渡す時、変えるのはひとつだけ
無言で置かない。理由を一言添える。
その人が言ったこと、その人がやっていたこと、その人が疲れていた場面。
9割は明日も、全員分のお菓子を買って安全に配ってる。
その中で一人だけ、理由を付けて渡した人の顔を、あの人は夜まで覚えてるよ。

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